せっかくだから、今や伝説の株主提案の復習もしておこう。
株主提案権の乱用的行使を防止するため、法務省が会社法改正し、新たな措置の具体的な検討へ。株主提案権乱用防ぐため、回数制限などを検討。
日経新聞によると、法務省は株主総会で株主側から議案を提起する「株主提案権」の乱用的行使を防止するため、新たな措置の具体的な検討に入ったとのこと。
1人の株主が大量の提案を出し企業に過度の負担をかける事例もあり、回数制限などを検討とのこと。
法務省は株主総会で株主側から議案を提起する「株主提案権」の乱用的行使を防止するため、新たな措置の具体的な検討に入った
1人の株主が大量の提案を出し企業に過度の負担をかける事例もあり、回数制限などを検討
株主提案権の乱用的行使を防止するため、法務省が会社法改正へ向けて動き始めました。これを語るには、あの伝説のくだらない株主提案を取り上げる必要があるでしょう。それが下記。
豆知識: 今や伝説の大量の株主提案:「便器はすべて和式とし、足腰を鍛練」、「野村ホールディングスから野菜ホールディングスへ」など、2012年の1人の株主から野村への100件の株主提案がぶっ飛んでいることで有名。こういった提案の乱用的行使が防止される方向になる。
さて、今回の記事では、会社法改正の検討課題の中で、最も注目が集まっている、「株主提案権乱用防止」を含む、「株主総会の手続きの改善」について語りたいと思います。
上記で1人の株主が大量の提案を出したとありました。いったいどの事例のことでしょうか。
上記日経新聞によると、関西電力では16年に原子力発電所の廃炉や社会的責任(CSR)強化などの議案が22件提案されたとのこと。野村ホールディングスは12年、1人の株主から「社名を野菜ホールディングスに変更する」などの株主提案を100件受けたとのこと。
関西電力では16年に原子力発電所の廃炉や社会的責任(CSR)強化などの議案が22件提案された
野村ホールディングスは12年、1人の株主から「社名を野菜ホールディングスに変更する」などの株主提案を100件受けた
覚えているでしょうか。2012年の野村への株主提案100件について。上記で挙げられたのは、
- 野村ホールディングス証券→野菜ホールディングス
という名称の変更の提案。「野菜」とはぶっ飛んでます。というかくだらない。ただ、他にもさらに興味深いものがあります。野村が当時公表した資料からいくつか抜粋しましょう。
- 野村ホールディングスのオフィス内の便器はすべて和式とする
トイレを和式にする。いったいどういうことか。
足腰を鍛練し、「ふんばる」ため。この株主は、野村を破綻寸前とし、今が「ふんばりどき」としています。
ふんばるために和式にする。
「ふんばるための和式化には反対」。友人たちと話す分には大爆笑ネタでしょう。
もう一つ、紹介します。
- 取締役の呼称を「クリスタル役」とする
この株主は、取締役という言葉の響きは堅苦しく、取締役会では支配下の子会社の業績に関して全く取り締まっている様子がないとし、取締役会の呼び方はいい加減なもので済ませることとするというのが理由としたそうです。
余談: 野村の株主は、株価が低迷していた野村を皮肉ることで、怒りをぶつけ、このような提案を大量に出した可能性がある
ぶっ飛んでいる提案をいくつか取り上げました。
ただ、この株主の考えを考察するため、ちょっと当時の事情を考えて見ましょう。
2012年のこの株主総会があるまで、野村の株価はひどく低迷を続けていました。この株主は「おそらく」この株価低迷における損失が許せなかったのでしょう。
トイレの和式化についていえば、ふんばりどころ、野村の株価が下がりすぎてて許せないという気持ちから。こうやって皮肉って怒りをぶつけていた可能性は否定できません。
ただ、これを真面目に株主総会で
- 野村ホールディングスは、名称を野菜ホールディングスへと変更しません。理由は・・・。
- 野村ホールディングスのオフィス内の便器はすべて和式とはいたしません。理由は・・・。
と、丁寧に答えていったら、時間がかかりすぎるわけです。もっと建設的な議論に時間をかけたほうがいい、という問題があるわけです。
改善する余地はいくらでもあるでしょう。
会社法改正の検討課題として挙げられている主なテーマ4つ
さて、ちなみに、今回、会社法改正の検討課題として挙げられている主なテーマが4つあります。上記日経新聞によると、法務省は、
- 株主総会の手続きの改善
- 社外取締役の義務付けの是非
- 役員報酬の制度改正
- 社債の管理業務に関する規定の見直し
を主な検討課題に設定。法制審で1年半~2年かけて議論し、2019年以降の法案提出を目指すとのこと。
法務省は(1)株主総会の手続きの改善(2)社外取締役の義務付けの是非(3)役員報酬の制度改正(4)社債の管理業務に関する規定の見直し――を主な検討課題に設定
法制審で1年半~2年かけて議論し、2019年以降の法案提出を目指す
今回この記事で取り上げているのは、1番注目されている、株主総会の手続きの改善の中で、さらに注目されている株主提案権の制限についてです。
株主提案権の制限、乱用を防ぐというのはわかりましたが、どのように制限すべきなのか、現状の問題点など最後におさらいしておきましょう。
なぜ株主提案権の制限は必要なのか。どのように株主提案権の制限をするのか。
上記日経新聞によると、株主提案権の制限は株主総会の手続きの改善策の目玉とのこと。現行では総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を6カ月以上前から保有する株主に行使が認められ、提案数や提案内容に制限はないとのこと。
民間調査では15年7月~16年6月に開かれた上場企業の株主総会で株主提案権が行使されたのは50社で、5年間でほぼ倍増したとのこと。
米国では提案を株主1人あたり1つに制限し、英国やドイツでは明らかに乱用的な内容の議案を排除する規定を設けているとのこと。株主の権利を不当に制約することなく企業負担を減らす方策を法制審で議論するとのこと。
株主提案権の制限は株主総会の手続きの改善策の目玉
現行では総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を6カ月以上前から保有する株主に行使が認められ、提案数や提案内容に制限はない
民間調査では15年7月~16年6月に開かれた上場企業の株主総会で株主提案権が行使されたのは50社で、5年間でほぼ倍増した
米国では提案を株主1人あたり1つに制限し、英国やドイツでは明らかに乱用的な内容の議案を排除する規定を設けている
株主の権利を不当に制約することなく企業負担を減らす方策を法制審で議論する
現在、株主提案は何個でもできることになっています。かなり高い確率で、まずはここが改正されるでしょう。
「総株主の議決権の1%以上」という点についても、比率を「1%」から上げるという選択肢も議論されることでしょう。
そして、あまりにもくだらない提案(議論に値しない提案)については、どう対処するのか。まともな提案が多くある中、まともな提案との線引きをどうするのかなど、議論すべき点は多くあるといえます。
今後の議論に要注目です。