攻めの姿勢は評価するし、応援もしたいが、懸念材料が多い。
アサヒがアンハイザー・ブッシュ・インベブと、東欧5カ国のビール事業を約8883億円で買収することで合意
日経新聞によると、アサヒは13日、ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)と、東欧5カ国のビール事業を約8883億円で買収することで合意したと発表したとのこと。
10月に3千億円を投じて取得した西欧事業に続く大型M&Aとのこと。
アサヒは13日、ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)と、東欧5カ国のビール事業を約8883億円で買収することで合意したと発表した
10月に3千億円を投じて取得した西欧事業に続く大型M&A(合併・買収)
アサヒが9000億円近く払って東欧5カ国のビール事業を買収します。
アサヒの攻めの姿勢はいいと思います。ただ、正直、今回の買収金額を見て瞬時に言いたいことは、「高い」ということ。これは下記で書きますが、その前にまずはいい話をしましょう。
アサヒは約8883億円払って、東欧の有名ビール事業を買収。アサヒはヨーロッパでプレゼンスを示すことができる。
さて、私はアサヒの攻めの姿勢そのものは評価しています。
アサヒは海外展開が遅れています。ビールで国内市場が縮小する中、海外を目指すのは企業としては当然の動きでしょう。そして、アサヒの攻め方はヨーロッパでのブランド力を上げる方向に向かっています。
このあたりは、アサヒが東欧事業を買収するという話が出た時点で私のほうでも記事を書いていますので、そちらをご参照ください。
今回買収するのは、東欧でけっこう有名なビールブランドがそろっています。
上記日経新聞によると、インベブに買収された英国の旧SABミラー傘下、チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアの事業が買収対象とのこと。歴史が古く著名なチェコの「ピルスナーウルケル」も含む。2017年上期に手続きを完了する予定とのこと。
各国でのシェアはいずれも3割を超え、スロバキアの2位を除いて4カ国で首位。16年3月期の売上高は約2千億円、営業利益は約430億円と高収益とのこと。年間販売はアサヒ国内の1.5倍にあたる2億5千万ケース(1ケース大瓶20本換算)に上るとのこと。
インベブに買収された英国の旧SABミラー傘下、チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアの事業が買収対象。歴史が古く著名なチェコの「ピルスナーウルケル」も含む。2017年上期に手続きを完了する予定
各国でのシェアはいずれも3割を超え、スロバキアの2位を除いて4カ国で首位
16年3月期の売上高は約2千億円、営業利益は約430億円と高収益
年間販売はアサヒ国内の1.5倍にあたる2億5千万ケース(1ケース大瓶20本換算)に上る
アサヒが買ってる会社ですが、東欧では大変プレゼンスのある会社を買っていると思っていただいてかまいません。
上記に挙げられているチェコのブランドは大変有名ですし、あと私はルーマニアに詳しいので書くと、今回アサヒがルーマニアの事業(ウルスス)を買ってます。ウルススは、まぁルーマニアでは知らない人はいないビールブランドですね。
そう考えると、アサヒの攻めは大変素晴らしいことですし、ヨーロッパでのプレゼンス向上につながります。しかし今回は懸念材料があります。そこへいきましょう。
アサヒの9000億近くの買収での懸念は、買収金額の高さと、さらにいえば、アサヒの海外での経験不足。
アサヒの買収での懸念は、
1.買収金額の高さ
2.海外展開そのものが遅れているアサヒに、東欧5カ国のビール事業をコントロールしきれる力量があるかどうか
この2つ。
1.アサヒは5000億円超でSABミラーの東欧事業を買収提案していた。終わってみれば、アサヒは9千億円近くという高値で買収することに。
アサヒは5000億円超で買収提案をしていました。このあたりは、冒頭で書いた記事をご参照ください。
値段が高くなったのは、ライバルがいたから。上記日経新聞によると、当初、5千億円超と見込まれていた買収額は、中国ビールメーカーや欧米ファンドなどとの激しい獲得合戦で9千億円近くに跳ね上がったとのこと。それでも買収を決めたのは「こんなチャンスは二度とない」(アサヒ幹部)という判断からとのこと。
当初、5千億円超と見込まれていた買収額は、中国ビールメーカーや欧米ファンドなどとの激しい獲得合戦で9千億円近くに跳ね上がった
それでも買収を決めたのは「こんなチャンスは二度とない」(アサヒ幹部)という判断から
こんなチャンスは二度とない。どうしてでしょうか。それは、今回の案件が、特別な案件だからです。
上記日経新聞によると、今回の東欧事業と10月に買収した西欧事業は、インベブのSAB買収に伴う独占禁止法対応で売りに出された案件とのこと。
今回の東欧事業と10月に買収した西欧事業は、インベブのSAB買収に伴う独占禁止法対応で売りに出された案件
だから、好機だと。しかし、9000億近くまで買収金額が上がったわけです。当初の5000億円だったらまだしも、これら5カ国の事業で9000億円支払うのは、安くない金額。
アサヒは買収資金を銀行借り入れでまかなうとのこと。16年12月期の会社計画を基に試算すると、有利子負債は約2.5倍に膨らむ計算
松井証券の窪田朋一郎氏は「対象企業の収益規模をみると、少なくとも『割安』とは言いがたく、一定のリスクを抱えた買収だ」とみる
ちょっと割高でも、買ってプレゼンスを高める、と。しかし、この戦略は本当にうまくいくのか。そこにつながるのが、次の懸念。
2.海外展開そのものが遅れているアサヒに、東欧5カ国のビール会社をコントロールしきれる力量があるかどうか
アサヒは国内では超有名ですが、海外展開が遅れています。これは有名ですが、復習しておきましょう。
日経新聞によると、アサヒの売上高の海外比率は全体の1割強にとどまり、3割超のキリンホールディングスなどに比べ出遅れてきたとのこと。
アサヒの売上高の海外比率は全体の1割強にとどまり、3割超のキリンホールディングスなどに比べ出遅れてきた
前回の記事でも書いたように、これだからこそ、まず西ヨーロッパでかい買い物をし、そして今回、東ヨーロッパでさらにでかい買い物をしているわけです。
ただ、再度考えてみると、アサヒの海外比率は全体の1割強しかありません。9000億円近くもの金額で海外事業を買収する。しかも、けっこう名前が通じるブランドです。
海外での経験が浅いアサヒに、本当にこれらローカルブランドをコントロールしきれるのでしょうか?結論から言えば、アサヒはけっこう苦労すると思います。
そこを乗り越えて、アサヒは真のグローバルカンパニーになるわけですが、海外進出をしている企業でけっこう苦労している企業も多い現状を見ても、そうすんなりとはいかないだろうなと感じます。だから、これも今回の懸念材料となっています。
アサヒは東欧事業買収もして、海外事業を成長エンジンにする
上記日経新聞によると、欧州は新興国に比べ急成長は見込めないが、世界の4分の1超を占める巨大市場とのこと。18年に欧州で生産を始めるスーパードライやピルスナーウルケルといった商品を欧州全体の販路に乗せる相乗効果も見込むとのこと。小路明善社長は、「海外事業を成長エンジンにする」としたとのこと。
欧州は新興国に比べ急成長は見込めないが、世界の4分の1超を占める巨大市場
18年に欧州で生産を始めるスーパードライやピルスナーウルケルといった商品を欧州全体の販路に乗せる相乗効果も見込む
「海外事業を成長エンジンにする」(小路明善社長)
アサヒは海外展開を加速させる気満々です。日本企業なので、応援もしたいところ。
アサヒの今後のブランド戦略にも要注目ですね。